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漫画の視線誘導のコツ!コマ割りや吹き出し配置での演出方法

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漫画の視線誘導をマスターすればあなたの漫画は圧倒的に面白くなります。コマ割りや吹き出しの配置、人物や小物の位置、背景、全てを使って読者の視線を巧みに操り演出するマル秘技法。今回はそんな視線誘導の基本的なコツを徹底解説します。

漫画の視線誘導を使う前に読者の目の動きを把握しよう

漫画で視線誘導による演出をする前に、読者の自然な目の動きがどんなものか把握しておきましょう。

読者の視線は何もない場合コマの中心を通るように動きます。右から左へ。そこから右下へ斜めに移動し、また右から左へ。

大切なのが、視線の移動した先も少し視界に入ると言う事。視線を動かしたその先もほんのりと印象に残るわけです。漫画の視線誘導による演出ではこれも上手く利用します。



ではここに吹き出しを配置してみましょう。読者の視線は右から左へ、上から下へ流れる事を忘れずに。その流れに逆らわない位置に吹き出しを配置します。

漫画の中で、読者の視線は1番にセリフに行きます。セリフを読み進めてていくわけですから、吹き出しの位置は視線を誘導する力が1番強いです。吹き出しの中心を結んだ方向に視線は誘導されます。

さらに、吹き出しの中心の上下左右もほんのりと視界に入ります。この位置に配置したものは読者は頭では認識していなくても潜在意識に印象が残るので、これも上手く利用します。

セリフの次にキャラの顔に目が行き、背景や体のライン等で直線的な線を作ればその方向にも視線が動きます。

それ以外のアイテムは視線誘導で上手に目に入るようにしてあげないと見落としてしまう事もあるので、ストーリーに関わる重要なアイテムは必ず視線誘導で濃い視線の線をつくった上に配置しましょう。

効果音は、「セリフを読んで人物の表情を見る中で自然と頭に入ってくる」状態が望ましいです。意識で読ませるのではなく、自然と聞こえてくるかのような状態を狙うわけです。そのために、効果音も視線誘導で作り上げた線の上に上手に配置するのが基本です。

例外は爆発音等の「登場人物全てがその音に注目するような音」。こういう強く印象付けたい効果音はあえて視線誘導の線から外して大きく目立つように書き、浮き上がらせるようにするのもテクニックです。

吹き出しの配置で出来た視線誘導の線に絵を乗せる

先程配置した吹き出しで作られた視線誘導の線上に絵を配置していきます。

視線誘導の線の上に乗るように配置している所もあれば、わざと線から外して配置している所もあります。1コマ目の座っている人物は視線誘導の線にがっつり乗っていますが、4コマ目ではどの線からも外れています。

これにはとある演出のテクニックが隠されています。



吹き出しの配置で作られた視線誘導の線の上に人物の顔や重要なアイテムを配置すると「時間経過が早く」感じます。スピード感や迫力を出したいシーン、さり気なく何かを見せつつそれを強く印象付けたいシーンではこのテクニックを使います。

逆にどの視線誘導の線からも外れた位置に人物の顔があると、そこだけ時間経過がゆっくりに感じたり、あるいは一瞬止まっているかのような印象を与える事ができます。

この視線誘導の線に乗せたりあえて外したりする事は漫画のテンポをつくるためにも重要なテクニックなので、バンバン使っていきましょう。

ちなみに濃いピンクの丸で囲った部分は強く印象に残るところ。薄いピンクの丸で囲った部分は無意識に視界に入ってほんのり印象に残るところです。2コマ目は、吹き出しの位置による視線誘導の線から外れているのに、あるテクニックを使う事で強く印象付ける事に成功しています。そのテクニックとは?次の章で解説します。

キャラの顔、視線等、絵を使って視線誘導

視線を誘導するのに吹き出しの位置の次に強い力を持っているのがキャラの顔です。さらに体や背景で直線的なラインを作ればそれも視線の誘導に強い力を発揮します。キャラの視線の向きや効果線も有効です。



先程お話した2コマ目が強く印象付ける事に成功している理由を解説しましょう。

1コマ目の主人公の顔、その視線の先に座っているキャラの顔。その先の直線上に2コマ目のキャラの顔がきています。さらに吹き出しの上下左右の薄いピンクの線にも顔がかかっています。2つ以上の視線誘導の線がかかっている事で、強く印象付けられているんですね。

さらに、このページにとっての重要アイテム「本」も同じテクニックで印象付けられています。1コマ目の座っているキャラの椅子が真っ直ぐ横に並んで2コマ目の本の方へ視線が流れるようにできています。セリフの上下左右の線も2本もかかっている。こうして「本」を印象付けるから3コマ目の本を投げるシーンが映えるんですね。

そして注目すべきが3コマ目。ここでは「視線の動きで本当に動いているような感覚を味わえる」テクニックが使われています。

普通なら視線は右から左に流れるので、本が投げつけられてバウンドする動きも右から左へ書いた方が良いように感じますが、左上から右下へ流れる視線の素早い勢いを作る事で、そこから吹き出しを境に右へバウンドするような視線の動きができています。効果音の位置もこのテクニックに役立っています。

2コマ目の本に目が行き、そこから右下の3コマ目の吹き出しには何もしなくても視線が向かうのですが、それを補助するように3コマ目には本を投げつけた効果線が描かれていますね。「2コマ目の本→効果線(視線が加速)→3コマ目吹き出し」そこから吹き出しを境に跳ね上がるような位置に書かれた効果音と本。

跳ね上がる方向が流れに逆らった左→右なのでスピードを遅らせる効果もあり、「勢い良く投げつけられた本がフワッと空中に浮く」ような印象を与える事にも成功しています。

そして4コマ目。あえて視線誘導の線から外した座っているキャラは時間の流れがゆっくりに感じるので「しーん……」とした感じが出ているのですが、座っている椅子のラインもその効果の手伝いをしています。横に続く椅子のラインの一直線上には何も書かないようにしているので、止まっていて静けさのある雰囲気をさらに際立たせているのです。

さらにキャラの位置関係にも秘密が隠されています。

キャラの位置でキャラ同士の関係性を印象付ける

1コマ目では主人公は椅子に座ったキャラよりも下の位置に顔があります。こうすると下に配置したキャラは上に配置したキャラよりも下の立場にある事が読者の無意識に入っていきます。

ところが主人公が怒った途端に2コマ目で椅子に座ったキャラよりも高い位置に顔が来ました。ラスト4コマ目では上下の位置はもう逆転してしまっていますね。

さらに細かなテクニックですが、1コマ目の椅子に座ったキャラと手、4コマ目の主人公と手、椅子に座ったキャラと手、その全てが一直線上に並んでいます。こうする事で主人公の立場と椅子に座っているキャラの立場が入れ替わった滑稽さが読者の潜在意識にスルッと入ります。

料理の隠し味のように読み手には言われてもわからないようなさり気ないテクニックですが、確実に料理の味を変えています。この僅かな違いが全体を通した面白さに大きく関わってくるんですね。

次の章ではそういった隠し味をさらに解説していきます。

視線誘導を使った感情や動きの演出のコツ

よくよく見ると、関連したもの同士が全て一直線上に繋がるように配置されています。

1コマ目の本→3コマ目の「バサッ」→吹き出し。この本が投げつけられた事が無意識に感覚で感じ取れます。

2コマ目の主人公の顔→「ムッ」→1コマ目の椅子に座ったキャラのセリフ→3コマ目の投げつけた効果線→吹き出し。座ったキャラのセリフにムッとして投げた事が無意識に入ってきます。

2コマ目の本→4コマ目の起こる主人公顔→3コマ目の本を投げつける効果線。怒って本を投げつけた様子が強調されています。

そして3コマ目のセリフから4コマ目のセリフへ流れる線の間に主人公の怒った手も入っているので投げつけた時の気持ちがよりわかりやすくなっています。

3コマ目の「ゴッ」という強い音は、4コマ目の椅子に座ったキャラと一直線上で繋がっているので「ゴッ」と本を投げつけられた事に対するリアクションだという事が強調されています。

注目すべきは3コマ目に意図的につくられた空間。4コマ目の主人公の手の真横のライン上で本を投げた効果線がプッツリ切れるようになっています。この空間は、本を勢いよく投げつけてフワッと上に舞った本の「間」を強調しています。

さらに3コマ目のセリフはたくさんの視線誘導の線が集中しています。こうする事で3コマ目のセリフが強く強調されて、怒って雰囲気のガラッと変わった主人公、そして主人公の怒りの感情を深く印象付ける事ができます。

こんな工夫をしても何も変わらないように思うかもしれませんが、こういったテクニックを積み重ねる事で読者の心をストーリー上の誘導したい方向に少しずつ持っていく事ができます。なんて事ない日常を切り取ったストーリーも、読者の胸に深く突き刺さる漫画になっていくわけですね。

右から左へ文章のように流れる。これが漫画の「言語」だ!

漫画のストーリーをつくる上で大切な事のひとつに「わかりやすい」漫画かどうかというのがあります。

プロットの段階でわかりやすいストーリーを作り上げてもネームにすると一気に読み辛くなってしまう。編集に「ネームが読み辛い」「わかり辛い」と言われるなら、このように漫画の「言語」を意識してネームを描くと良いですよ。

わかりやすいネームは、右から左へ流れる文章のように絵が配置されています。

この画像では、「主人公が→この人のセリフで→ムッとして→この本を→投げて怒って→立場強くなり→青ざめるこの人に→さらに言葉ぶつける」という流れが順番通りに配置されています。

言葉も順番を逆にするとニュアンスが変わる表現がたくさんありますが、漫画も同じで、絵の順番を変えると大きくニュアンスが変わるんですよ。

例えば「主人公が街で訳ありそうな女の子と遭遇し、なぜか引っ叩かれた」と「訳ありそうな女の子が主人公と遭遇して突然引っ叩いた、それも街中で」と「街の中で主人公が引っ叩かれた、相手は訳ありそうな女の子だった」では強調される物が違うので受ける印象も全く違いますし、読者がその後の展開に期待する物も当然変わってきます。

「なぜ引っ叩かれたのか?」という謎に注目させておいて、延々と女の子の可愛さを強調するエピソードが続き「引っ叩いた理由」がサラッとしたもので終わっては読者はガッカリしてしまいます。「読者が女の子の可愛いシーンを期待する展開」に持っていくために、細かなニュアンスの違いを使い分ける事はとっても大切なんですね。

これを利用し演出する事で「読みやすい、わかりやすい漫画」になるだけでなく、読者の期待を裏切らないストーリーの盛り上がり◎な面白い漫画になりますよ

視線誘導を駆使した漫画と下手な漫画を見比べてみよう

実際にこれらの視線誘導を使った演出にどの程度の効果があるのか?視線誘導を駆使した漫画と、まるっきり無視して適当に絵を配置した漫画を見比べてみましょう。



こちらは視線誘導を全く意識せず、適当に絵を入れたものです。内容は全く同じですが、いかがでしょうか?テンポも悪く、勢いも全く出ておらず、視線の動きもブレブレなのでなんとなく「読み辛い」印象を受けますよね。

では、今回の解説で使った視線誘導による演出をちゃんと意識して作った漫画を改めて見てみましょう。



いかがでしょうか。内容は全く一緒なのに、キャラの感情と、本の動きが、自然と入ってきませんか?

セリフは入っておらず、絵も簡易的なものなので、純粋に「視線誘導による演出の力」だけです。ほんの僅かな差の積み重ねが大きな差を生んでいるんですね。

まとめ

大人気の漫画ほどこの視線誘導による演出が緻密で素晴らしいです。

視線誘導による演出は一見難しく感じて自分の漫画に取り入れるのに最初が混乱してしまいますが、慣れれば呼吸をするように感覚でスイスイと吹き出しや絵を配置していけるようになりますよ。

今回の基本テクニックを頭に入れた状態で大人気の漫画を読み、自分で視線誘導の線を引けば、たくさんのプロのテクニックを紐解く事ができます。

そうやって自分の中にテクニックのストックをつくって、自分の漫画にどんどん活かしていくと少しずつ身に付いていきますよ。

漫画の視線誘導はとても奥が深いので、今後もどんどん紹介していきますね。

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